伝統的七夕ライトダウン2013キャンペーン

呼びかけ人:寮 美千子さんからのメッセージ

はじめてはっきりと天の川を見たのは、アリゾナの砂漠でした。人工の明かりのない真っ暗な砂漠。 空と大地の区別もつかない漆黒。けれど、どこからが空なのか、はっきりとわかりました。 大地から いきなり天の川が立ち上がっていたからです。 そのままぐるりと頭を巡らせると、それはきらきらと 光りながら、頭上を通過して、反対側の大地へと沈んでいました。 星たちは、どれもこれも驚くほど 大きくて手を伸ばせば届くのではないかと思うほど。 あんまりいっぱいあって、星座を探すのがむず かしいくらいでした。

そんな星空を、わたしはそれまで、見たことがありませんでした。 幼いころ、父が「ほらあそこが 天の川だよ」と教えてくれても、 なんだか薄ぼんやりと白いものが見えるような気がするだけ。よく わからなかったのです。 天の川とは、ほんとうに星を浮かべた天の河なのだと、わたしはその時、は じめて納得しました。

そこはアメリカ先住民の居留地。 何もないけれど、彼らは毎晩、気の遠くなるほど美しい星空を見て 暮らしているのです。 そして、とても心豊かに暮らしている。アリゾナの大地では、神話や物語が、 人々の心のなかに生きていました。

日本で、そんな星空が見えたのは、あの3月11日の大地震と津波の後だったといいます。 何もかも なくなった海辺の町。暗い海の向こうにきらめいていた無数の星。 美しいけれど、なんと心の痛む景色 でしょうか。そして、あの原発事故。

わたしたちは「もっと、もっと」と多くのものを求めて生きてきました。 そのせいで、ほんとうに美 しい星空や、大切な心を見失ってしまったのかしれません。 光でいっぱいの都市の空で、天の川を見失 ったように。

明かりを消してみましょう。明かりのない暗い夜は、ほんとうにわたしたちが怖れるほど貧しくて、 さみしいものでしょうか。 いっぱいの明かりに目がくらんで見えなくなっていた大切なものが、見え てきはしないでしょうか。 どこにも影が見えないほど明るくすることよりも、やさしい闇の方が、ず っとずっと豊かであることを、 わたしたちは思いだすことができるかもしれません。きっと、それこ そが、わたしたちに未来に、新しい道を指し示し、喜びと希望を見せてくれることでしょう。

さあ、明かりを消して、あなたの大切な人と、空を眺めてみましょう。 きっと、闇のなかでしか見 えないものに気づく、すてきな夜になることでしょう。


プロフィール
寮 美千子 (りょう みちこ)
作家・詩人
星と石が好き。天文学と地球史と先住民文化に興味がある。 天文絵本に『ほしがうたっている』(新思索社)、『遠くをみたい―星の贈りもの―』(パロル舎)、 『黒い太陽のおはなし 日食の科学と神話』(小学館)、 『ほしのメリーゴーランド』(フレーベル館)など。 電波天文学をテーマにした小説『ラジオスターレストラン』は、2012年夏、 金沢市でジュニア・オペラ「ラジオスターレストラン 星の記憶」として上演された。