伝統的七夕ライトダウン2012キャンペーン

呼びかけ人:瀬名秀明さんからのメッセージ

作家・大佛次郎の兄であり、かつて星の案内人としてたくさんの人に親しまれた天文家・文筆家の野尻抱影さんは、 その著書『星 三百六十五夜』(中公文庫)で仙台七夕を取り上げています。

それは8月7日の短文。終戦から数年後、野尻さんは仙台公民館の講演に招かれ夜行列車で東京を発ちます。 仙台の七夕祭は当時も有名で、夜明けになれば郡山あたりの各駅からも続々と見物客が乗り込んでくるのです。 到着すると旅館はどこもいっぱい。野尻さんは芭蕉の辻の賑わいに驚き、講演後には商店街を歩いて、 当時の仙台を鮮やかに書き留めてゆきます。

竹にはさまざまな飾りが吊され、新手のセロファンの吹き流しはことに美しく、 その涼風に揺れるさまに野尻さんは魅了されます。 そしてたくさんの人だかりで盛況な町を見物して歩きながら、ふと、この祭りの正客、 すなわち織女と牽牛はどこだろうと夜空を見上げて、 「赤や青の、昼をあざむく光の反射する空から、まじまじ瞬いている女夫星をようやくに発見した」のでした。 野尻さんは同時に思い返します。ついさきほど講演したときも、多くの聴衆が織女と牽牛を知らなかったことを。

震災を越えて私たちは、いまなお刻々と移りゆく、険しくも鮮やかな時間を生きています。 私たちはいっとき電気の光を失いましたが、 あのころ「昼をあざむく光の反射する空」の向こうにある星々を見上げたのでした。

この夏、多くの仲間や友と夜空を見上げ、鮮やかなこの時を改めて心に刻み、未来に思いを馳せることができたら。 電気を届けてくれる人々がいま私たちの社会にいることに感謝しつつ、その灯りをいっとき消して、 祭りの正客を私たちひとりひとりの心で迎えられたら。


プロフィール
瀬名秀明 (せな ひであき)
作家
1968年生まれ。作家、仙台市在住。 『パラサイト・イヴ』『虹の天象儀』『デカルトの密室』『インフルエンザ21世紀』 『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』(原作=藤子・F・不二雄)『希望』など著書多数。 2006年から2009年まで東北大学機械系特任教授も務めた。