暗やみを失くした夜
子どもは夜が嫌いだ。無垢な心は、経験という名の手垢もついていない分、想像力という内的世界も貧しくて、目で見えるものだけがすべてだから、見えることを隠す闇夜の暗さはたださみしくて恐ろしいだけである。
成長するにしたがって心の内側にいろいろな光景をたくわえたり作り出せるようになると、深い闇にあらゆる可能性を内包した豊かさを見いだすようになる。自立した大人の感性がそこにある。
昨今そこかしこで夜景がもてはやされているのは、目に見えるものでしか安心できない大人たちの、幼稚さのあらわれではないか。暗やみを失ったにぎやかな夜は、私たちに内面を見つめさせること、自分が誰かという問いから目をそらさせる。
3月11日震災当夜、停電で真っ暗になった町を抱きしめていた満天の星空と、その凄まじいばかりの美しさについて、何人もの被災者が語っている。被災者の方たちは状況も心持ちもさまざまだと思うが、あの星空が一様にその後の生き方を考えるきっかけとなったと聞く。このことの意味は幾重にも重い。
覚 和歌子(かく わかこ)
詩人・作詞家
山梨県生まれ。平原綾香、クミコなどへの数多くの作詞、オリジナル作品のリーディングライブ、 映画監督、などその活動は多岐にわたる。 01年、映画「千と千尋の神隠し」主題歌「いつも何度でも」の作詞でレコード大賞金賞。 ソロアルバムは、「青空1号」につづき、「カルミン」を発売。 映画「ヤーチャイカ」では、谷川俊太郎氏とともに監督をつとめる。 07年~08年に、山梨県立科学館とともに行った「星つむぎの歌」プロジェクトにおいて、 企画・監修・選定・補作をおこない、それが「星つむぎの村」の活動へとつながりつつある。
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